まちスコープでは、地域で公開されているデータを地図やグラフで可視化し、そこから地域の特徴や課題を読み解いていきます。今回取り上げるのは、子どもたちが地域の中で「危ない」と感じた場所と、実際に交通事故が発生した場所です。
交通安全を考えるとき、交通事故の発生地点は重要な情報になります。一方で、事故が起きていない場所が、必ずしも安全であるとは限りません。見通しの悪い交差点、歩道が狭い道路、車の速度が速く感じられる場所など、日常的に地域を歩く子どもだからこそ気づく危険もあります。
そこで、小学生が作成した地域安全マップと、山口県が公開している交通事故のオープンデータを同じ地図上に重ねました。
過去に事故が発生した場所を示すデータと、子どもたちが現地で感じた危険を示すデータ。性質の異なる2つの情報を組み合わせることで、地域の交通安全についてどのようなことが見えてくるのかを考えます。
今回紹介するダッシュボードは、山口県が開催したオープンデータ可視化ワークショップで、グループメンバーとともに制作したものです。本記事では、このダッシュボードを題材に、使用したデータや可視化の方法、地図から読み取れること、解釈する際の注意点を筆者の視点から整理します。
交通安全マップの紹介
作成したのは、小学生が記録した交通上の危険箇所と、実際に発生した対人事故の地点を、同じ地図上で確認できる交通安全マップです。
地図を拡大・縮小しながら、学校や道路、交差点、幹線道路などとの位置関係を確認できます。また、それぞれの地点を選択すると、子どもたちが危険だと感じた理由や、交通事故に関する情報が表示されます。
子どもが危険を感じた場所と事故地点がどのような位置関係にあるのかを見ることが、この地図のポイントです。
使用したデータ/ツール
デ今回のダッシュボードでは、主に次の2種類のデータを使用しました。
1つ目は、小学生が地域を歩き、安全な場所や危険な場所などを記録した地域安全マップのデータです。このデータには、子どもたちが実際に地域を歩く中で気づいた危険箇所と、その場所を危険だと判断した理由が記録されています。
2つ目は、山口県が公開している交通事故のオープンデータです。交通事故データには、事故の発生地点や事故類型などの情報が含まれています。今回は、その中から歩行者に関係する対人事故を対象として地図上に表示しました。
【出典データ】
- 令和5年度遠石小学校作成安全マップ 【交通】危険な場所.csv
- GNU Free Documentation License
- https://yamaguchi-opendata.jp/ckan/dataset/r5_toishisyou
- 令和5年度周陽小学校作成安全マップ 【交通】危険な場所.csv
- GNU Free Documentation License
- https://yamaguchi-opendata.jp/ckan/dataset/r5_syuuyousyou
- 【山口県】交通事故データ 2019年~2023年
- CC-BY-4.0
- https://yamaguchi-opendata.jp/ckan/dataset/traffic-accident-2019 ほか
※2019~2023年データを統合。2校の学区内の人対車両事故に絞ったデータを使用
また、可視化にはTableauを使用しました。
地域安全マップと交通事故データに含まれる緯度・経度を利用し、それぞれの地点を地図上に表示します。次に、地域安全マップに登録された危険箇所と、交通事故データの対人事故を異なる記号で表示し、同じ地図上で比較できるようにしました。さらに、地点を選択したときに危険と判断された理由や事故の概要を確認できるよう、ツールヒントを設定しています。
2つのデータを重ねると何が見えるか
クロス分析することで次のような3つの傾向が見えてきました。
- 子供が認識×事故多発:事故多発危険エリア
- 子供が認識×事故少数:ヒヤリハットエリア
- 子供非認識×事故多発:潜在危険エリア
異なる視点のデータを組み合わせる意味
今回の可視化から分かるのは、同じ街を対象としたデータであっても、データを収集した主体や目的によって、見えている地域の姿が異なるということです。
交通事故データは、過去に発生した事故を記録した客観的なデータです。一方、子どもの地域安全マップは、地域を歩いた当事者が感じた危険を記録したデータです。事故データだけを見れば、事故が発生していない場所は地図上に現れません。しかし、子どもの視点を加えることで、まだ事故として表面化していない危険について考えることができます。
逆に、子どもの安全マップだけでは、調査範囲外の事故地点や、子どもからは認識しにくい危険を把握できない可能性があります。異なる視点から収集されたデータを重ねることで、一つのデータだけでは捉えにくい地域の姿を、多面的に見ることができます。
一方で、この地図だけから、危険の原因や必要な対策まで決めることはできません。例えば、子どもが危険だと感じた理由が、車の速度なのか、道路の狭さなのか、見通しの悪さなのかによって、必要な対策は異なります。事故地点についても、道路環境だけでなく、事故が発生した時間帯や当事者の行動など、さまざまな要因が関係します。
よく地域分析をする際に陥りがちですがデータを重ねることだけで結論を出すのではなく、分析結果をもとに現地を確認し、子どもや保護者、学校、地域住民、行政などが対話するための入口として活用することが重要です。
また、データ分析そのものが目的になると、「まだ結論が出ないから、さらにデータを集めよう」「より精度の高いデータがあれば、よりよい答えが出るはずだ」と考え続けてしまいがちです。これは、データ分析に携わる人間の宿命ともいえるかもしれませんが、データは結論そのものではなく、地域について考えるための材料の一つとして捉えることが大切です。
まとめ
今回は、小学生が作成した地域安全マップと、山口県が公開している交通事故データを同じ地図上に重ねました。
交通事故データからは、実際に事故が発生した場所を確認できます。一方、子どもの地域安全マップからは、事故には至っていなくても、日常生活の中で感じられている危険を知ることができます。異なる主体が異なる目的で収集したデータを組み合わせることで、一つのデータだけでは捉えにくい地域の特徴や課題を、多面的に考えられるようになります。
ただし、地図上の位置関係だけで、事故の原因や危険性を断定することはできません。データから気になる場所を見つけ、現地を確認し、地域の人たちと対話する。今回のダッシュボードは、そのような地域の交通安全を考える入口として活用できるものです!


