QGIS人口分析の補講|総取りと面積按分、数字を動かして比べてみよう

QGIS実践講座

施設の周りに、どれくらいの人が住んでいるのか。図書館や公共施設の配置、バス停へのアクセスなどを考えるとき、周辺人口は地域の状況を把握する手がかりになります。

これまでのQGIS人口分析編では、施設から一定距離の範囲を作り、その範囲に含まれる人口を「メッシュ総取り」と「面積按分」で算出しました。今回は操作から少し離れて、同じ場所でも計算結果が変わる理由と、その数字をどう扱うかを整理します。

円を動かして、2つの数え方を比べる

下の図は、1マスを250m四方とした架空の人口メッシュです。マス内の人数は、そのマス全体の人口。中央の点は施設、青い円は施設から一定距離の範囲を表しています。円を動かすと、両方の計算結果が同時に変わります。

オレンジ+青=総取り / 青=面積按分。ドラッグ・矢印キーで移動。

総取り —人 面積按分 約—人 差 —人(—)

まずは半径を変えずに、円をゆっくり左右へ動かしてみてください。総取りは、新しいマスにかかったときに人数が大きく変わります。一方、面積按分は、マスに表示された面積割合に応じて少しずつ変わります。この動きの違いが、2つの計算方法の特徴です。

人口メッシュで分かること、分からないこと

人口分析編 #02「メッシュ人口を地図で見る」では、町丁目などの小地域とは異なる区切り方として、メッシュ統計を扱いました。行政の境界にとらわれず、駅や施設の周辺を調べるときにも使いやすいデータです。

ただし、人口メッシュが教えてくれるのは「このマス全体に何人住んでいるか」です。マスの中のどの建物に何人住んでいるか、円で切り取った部分に何人住んでいるかまでは分かりません。

そこで、施設の周辺人口を求めるときには、マスの途中を横切る境界をどう扱うか決める必要があります。今回比べている総取りと面積按分は、この境界部分の扱いが異なります。

総取りは、円にかかったマスを丸ごと数える

人口分析編 #04「バッファ内人口を概算で算出する」では、施設のバッファと重なる人口メッシュを探し、その人口を合計しました。QGISでは「属性の空間結合(集計つき)」を使った処理です。

この方法では、人口400人のマスに円が少しでも重なると、その400人を全て数えます。円に入る面積が半分でも、10%でも、数える人口は同じです。図では、青い円からはみ出すオレンジの部分まで含めた範囲に当たります。

最初の配置では、円は400人・320人・360人・280人の4マスに重なっています。そのため、総取りは400+320+360+280=1,360人になります。円の中に住む人数そのものではなく、「円にかかった4マス全体の人口」を数えているわけです。

手順がシンプルなので、まず大まかな人口規模をつかむ入口には使えます。ただし、施設の位置を少し動かしただけで別の人口の多いマスにかかり、結果が急増することもあります。施設同士の小さな差を比較したいときは、境界のかかり方に左右されていないか確認が必要です。

面積按分は、重なる割合を人口に掛ける

人口分析編 #05「バッファ内人口を面積按分で算出する」では、人口メッシュとバッファの交差部分を取り出し、その面積から人口を配分しました。考え方は、次の式です。

マスから数える人口=マス全体の人口×(円と重なる面積÷マス全体の面積)

例えば400人のマスの半分が円に入っていれば、400×0.5=200人と推計します。図の最初の配置では、4マスとも円に入る面積は約50.3%です。それぞれの人口に、丸める前の面積割合を掛けて合計すると、約683.6人になります。

総取りの1,360人との差は約676.4人。同じ施設、同じ円、同じ人口データでも、境界部分の扱いによって、約2倍の違いが生じています。図の下の倍率は「総取り÷面積按分」で計算しています。

面積按分では、円がマスに少しだけ入ったときには少しだけ数え、マス全体が入れば全員を数えます。円を動かしたときに結果がなめらかに変わるのは、このためです。なお、デモの面積割合は数値積分による近似値で、人数と割合は表示時に丸めています。

どんなときに、2つの差が大きくなる?

違いが生じるのは、主に円の境界にかかるマスです。円の中に完全に入るマスは、どちらも人口を全て数えます。円の外にあるマスは、どちらも数えません。

  • 円に対してメッシュが大きいとき:マスの一部だけを数えたい場面が増え、総取りでは円外まで広く含めやすくなります。
  • 人口の多いマスに少しだけかかるとき:総取りでは、そのマスの人口をまとめて加えるため、差が大きくなります。
  • 円の位置を変えたとき:同じ半径でも、格子の境界との位置関係が変わるため、差は一定ではありません。

デモで半径を変えたり、円の中心をマスの中央や格子の交点へ動かしたりしてみてください。「総取りはいつも面積按分の何倍」と決められないことが分かります。差は対象範囲の形や位置だけでなく、人口分布にも左右されます。

面積按分なら正確、とは限らない

面積按分は、マスの中に人口が均等に分布すると仮定します。しかし、実際の街には住宅地、工場、公園、山林などが混在しています。面積が半分だから人口も半分、とは限りません。

例えば400人のマスの40%が円に入る場合、面積按分は160人です。ところが、その400人が全て円内の住宅地に住んでいれば、実際には400人。住宅が全て円外なら、実際には0人です。どちらのケースでも、メッシュ人口と面積だけを使った計算は160人のままです。

したがって、総取りより数字が小さくなったことと、実際の居住人数に近づいたことは別です。小数点まで表示されても、それだけで精度が高いとは言えません。地域の状況を踏まえ、どの程度の粗さまで許容できる分析なのかを考える必要があります。

QGISで結果が出たら、ここを確かめる

操作が完了して数字が出ると、ついそのまま比較したくなります。私は、まず境界付近のメッシュを一つ取り出し、手で計算できる大きさに戻して確認する方法が分かりやすいと考えています。

  • 集計した列:面積按分なら、合計するのは元人口ではなく「人口×面積割合」を計算した列です。
  • 面積の条件:元の面積と交差部分の面積を、同じ単位・計算設定で求めているか確認します。
  • データの欠落:結合できなかった行や処理から除外されたメッシュ、NULLや秘匿値を、無条件に0人として扱っていないか確認します。
  • 施設間の重複:複数施設の円が重なる場合、施設ごとの人口を足すと同じ住民を重複して数えます。

最後の点は、人口分析編 #03の「ポリゴンの融合」にもつながります。「各施設の周辺人口」が知りたいなら施設別に計算しますが、「いずれかの施設の近くに住む人口の合計」が知りたいなら、円の重複をなくした範囲で集計します。似た質問でも、計算する対象は変わります。

また、このデモは面積が重なるマスだけを対象としています。QGISの「交差する」という空間条件は、境界に触れるだけの場合も対象に含むため、結果を厳密に比べる際は判定条件にも注意してください。

周辺人口を、地域の判断につなげる

ここまで扱ったのは、「施設から一定距離の範囲に住む人口を、どう数えるか」という話です。ただし、近くに住んでいることと、実際に施設を使えることは同じではありません。

例えば図書館の利用しやすさを考えるなら、円の中に住んでいても、川や線路を渡るために迂回が必要かもしれません。道路がつながっていても、坂道や歩道の状況が負担になることもあります。開館時間や利用条件も、人口の地図だけでは分かりません。

人口分析編 #06「将来推計人口で施設周辺1km圏を比較する」では、さらに年齢層と将来時点を加えて比較しました。今の総人口が似ている地域でも、今後の高齢者人口や子どもの人数が異なれば、確認したい施設の役割も変わってきます。

周辺人口は、配置の答えを自動的に出す数字ではなく、次に調べる場所や問いを見つける材料です。「この範囲には人が多い。でも使いにくい理由はないか」「将来も同じ役割が求められるか」。計算の前提を理解したうえで、現地の状況や住民の声と組み合わせて考えてみてください。